リレーインタビュー【保存版】

【第9回】慈愛会クリニック 今村尚子院長

2022.11.11

健康寿命を延ばす指導に注力

―今年は開設10周年。糖尿病専門クリニックとして地域に根付いてきました。

ゼロから開業するのとは違い、今村病院糖尿病内科の外来部門を移す形でクリニックを開設したので、受診者数の確保など、いわゆる立ち上げの苦労はありませんでした。開院した平成17年の外来受診者数は月平均562人、今は月平均900人、今後も微増を予想しています。これまで一番の苦労は、今村病院に糖尿病内科の常勤医が不在になった時期、今村病院の入院患者さんとクリニックの外来患者さんの両方を診なくてはならなかったこと。掛け持ちは時間的にも体力的にも大変でした。1年半前に、今村病院に慈愛会糖尿病センターができて、治療や教育の体制が充実したので、ありがたく思っています。


―糖尿病治療の現状と、クリニックの近況をお聞かせください。

ここ10年で、薬で症状を良くすることと同時に、生活習慣の指導に重点を置くようになってきました。足の傷を防ぐ「フットケア」や「透析予防指導」など、新しい保険の算定が増えています。合併症を防ぎ、健康寿命を延ばしていくことが治療の目標。クリニック開設以来、食事療法や生活習慣改善の指導に力を入れてきましたが、近年それが点数にもなり、手ごたえを感じています。

フットケアは大切です。深爪から化膿したり、白癬がひどくなって壊疽を起こしたりして、足の切断となることがあるからです。年に数人は、足の傷が原因で入院されます。視力が落ちて傷に気が付かない患者さんもいらっしゃるので、声掛けや確認をしながら、必要な方にはフットケアを勧めます。

透析予防指導の効果はまさに、診察の現場で実感します。例えば、糖尿病性腎症は病期の区分が1期から5期まであるのですが、患者さんから「私はいま2期ですよね。どうすれば1期になれますか」といった言葉が聞かれるようになりました。以前はありえなかったことです。透析予防指導では、患者さんが定期的に来院されるのに合わせて、看護師、管理栄養士、医師のそれぞれが指導を行います。たとえば管理栄養士は塩分の知識やたんぱく質摂取と腎臓の関連など、毎回内容を変えて話します。一回ずつの内容は少しのことですが、回数を重ねると患者さんの理解の度合いが確実に深まっていきます。診察室で医師のほうからだけ話をしていた時よりも、ずっと効果があるようです。管理栄養士、看護師が、いろいろな工夫をして、分かりやすく丁寧に指導することが、症状悪化を防ぐことにつながって、いいチーム医療の形ができていると思います。指導内容も私の指示でなく、スタッフが率先して考えます。こういった指導には、大きな病院よりクリニックの規模が適していると思います。


―職員全員が女性の慈愛会クリニック。「院長」や名字でなく「尚子先生」と呼ばれ、親しみのある人柄がうかがえます。

今現在、非常勤を含む医師4名と、看護師、管理栄養士、事務職合わせて15人。意識して女性だけにしたのでなく、開院からこれまで、男性医師がいた時期もありました。小さなクリニックですので、和を大切にしています。職員に心身の不調がないか、院長として気配り目配りを心掛けています。毎日、スタッフと一緒に昼食を囲んで、仕事を離れておしゃべりするのが、楽しみでもあり、大事なコミュニケーションの機会にもなっています。


―内科医となったいきさつを教えてください。

小学生の時、医師になりたいという友達がいて、影響を受けました。家族親族に医師がいなかったので、なってみたいという気もありました。鹿児島大学医学部で専攻を決める時、自分の性格上、耳鼻科や眼科といった分野に進むとそれ以外のことが全然分からなくなると思って、内科に進みました。自分から率先して新しい事に挑戦するタイプではないので、内科で幅広く学んで、それから専門を絞ってもいいと考えたわけです。いま糖尿病専門クリニックで診療していますが、他の疾患がたまたま早く発見できてよかった、という場面もありますので、内科医としてレベルが落ちないようにしたいと常々思っています。


―医師としての信条がありますか。いま感じている課題や、抱負もお聞かせください。

慈愛会の理念にある「患者さんを肉親と思う」の心構えを大事にしています。患者さんに、家族のように寄り添い、支えになって、病状の改善だけでなく、メンタル面もよくしてあげられるようになりたいです。糖尿病であることを受け入れられない患者さんもいて、治療方針の伝え方には非常に気を遣います。インスリンの自己注射に対する拒否感が強い患者さんには、筋道を立てて、どういう根拠で注射が必要なのかを説明するのですが、「怖いことを言わないで」という反応をされることがあり、対応が難しいです。治療を受けず放置する方に、手当てが必要だと、どう伝えるか、それが大きな課題。心療内科的なアプローチの必要性を感じます。
クリニックの将来像としては、指導関係の一層の充実化と、今村病院やかかりつけの先生方との連携強化で、より患者さんのためになる治療を展開していきたいと思います。

好きな言葉は「念ずれば花開く」。困難なことも、念じてコツコツとやっていくと何とか成就するのではないかと信じています。