輸血管理室では、血液製剤の発注・入庫・検査・出庫などの管理、輸血関連検査の実施、輸血後の副作用への対応など輸血に関する業務全般を行い、患者様に安全で適正な輸血療法が施行されるよう日々努力しております。また、手術に備えた自己血の採取・保存・出庫、そして、造血幹細胞移植のために幹細胞採取前の幹細胞数の測定、採取された幹細胞の調整・保存・出庫などの業務も行っております。
輸血管理室はA棟1階に配置され、自己血採血室・幹細胞プロセッシング室も併設されております。
輸血療法は代替療法のない、患者様の予後を大きく左右する可能性のある重要な治療です。血液は、赤血球・白血球・血小板といった細胞成分と血漿成分からできており、血液を十分に作れない場合や、大量出血のために生命が危険に脅かされる場合、血液を固めるタンパク質(凝固因子)が不足し出血の危険がある場合などに、ヒト由来の血液または血液成分で補う治療法の一種です。輸血で補える成分は主に、赤血球・血小板・血漿成分および凝固因子です。しかしながら、輸血療法には様々な副作用があり、一定のリスクを伴うことより、このリスクを上回る効果が期待されるかどうかを十分に考慮したうえで、輸血適応を決める必要があります。そして輸血量は効果の得られる必要最小限にとどめ、過剰な投与を避けることも重要です。
輸血には、献血者から採取した血液由来の「同種血輸血」製剤と、患者様本人から採取した血液由来の「自己血輸血」製剤があります。
血液製剤の種類
・赤血球製剤
赤血球は酸素を全身に運搬する役割を持っています。けがや手術で出血したり、血液の病気や抗がん剤等で赤血球が作られなくなったりすることを貧血と言います。貧血が高度になると組織への酸素運搬が障害され、体の組織は酸素不足に陥り、心臓も含めて組織が障害されます。この場合には、赤血球液の輸血を行います。基本的に患者様と同じ血液型製剤を使用し、交差適合試験を行います。この検査で適合となった血液製剤が患者様に輸血されます。
・血小板製剤
血液の中の血小板や凝固因子(血漿成分に含まれています)は、出血した部位の血を止める役割を担っ5います。手術や大けが、化学療法などで血小板や凝固因子が減少すると血が止まらなくなり、さらに進行すると全身の皮膚、臓器に出血をきたし酸素が不足し血圧が保てなくなります。この場合には、血小板の輸血や必要に応じて血漿成分や凝固因子の補充を行います。凝固因子は、出血が起きたときに血小板や赤血球と一緒に頑丈な血栓を作って傷口を塞ぎます。基本的には患者様と同じ血液型製剤を使用します。
・血漿製剤
複数の凝固因子の欠乏による出血ないし出血傾向のある場合に使用されます。基本的には患者様と同じ血液型製剤を使用し、37℃にて融解した後輸血されます。
自己血輸血とは、手術前もしくは手術中に自分の血液を採血しておき、手術で輸血が必要になったときに採血しておいた自己血を輸血する方法です。同種血輸血による副作用(免疫的感作、感染症など)を回避でき、患者様にとってより安全な輸血を行うことができます。
当院では、自己血を全血で保存することも可能ですし、分離血で保存することも可能です。
自己血輸血の種類
手術前に必要な輸血量を貯血し、手術時に自己血輸血をします。
手術時や術後に出血した自己の血液を機械やバッグで回収し、自己血輸血をします。
手術室で麻酔後に自己の血液を採取し、採取した血液を代用血漿などで補い、手術終了直後に自己血輸血をします。
※これらは疾患や手術の種類によってはできない場合がございます。
自己血採血室
輸血管理室では、専従の臨床検査技師が輸血用血液製剤の発注・入庫・検査・出庫・実施確認の処理など管理を行っております。専従以外の臨床検査技師の協力を得て、輸血用血液製剤の管理は24時間体制で行っております。
ABO血液型は、A型.B型.O型.AB型の4つの基本型に分類され、日本人の頻度はそれぞれ約40%、約20%、約30%、約10%です。Rh抗原はとても複雑ですが、一般にC,c,D,E,eなどの抗原がよく知られています。Rh陽性やRh陰性という表現は、これらのうちD抗原がある場合をRh陽性、ない場合をRh陰性としています。日本人のRh陰性の頻度は約0.5%で、白人の頻度15%に比べると非常に低い割合です。
輸血をする前に、不規則抗体(溶血性副作用を起こすようなABO血液型以外の各種血液型に対する抗体)を検出する検査です。
スクリーニングで不規則抗体の存在が確認された場合、どの血液型に対する不規則抗体なのか同定検査を行い、安全に輸血できる血液製剤の検索や、患者様への情報提供を行っております。
不規則抗体は主に輸血歴や妊娠歴のある人から検出されます。日本人検出率は約0.4~4%です。
交差適合試験は、患者様の血漿に供血者赤血球に対する抗体があるかどうかを調べる検査です。
ABO式血液型の不適合や、その他の血液型に対する不規則抗体を検出できる方法を用いて行います。この検査で適合となった赤血球製剤が患者様に輸血されます。
全自動輸血検査装置
輸血検査室内
項目 | 2018年 | 2019年 | 2020年 |
---|---|---|---|
RBC | 5,377 単位 | 5,964 単位 | 6,243 単位 |
PC | 20,370 単位 | 29,340 単位 | 28,535 単位 |
FFP | 704 単位 | 1,285 単位 | 1,876 単位 |
・骨髄移植
血縁ドナーおよび骨髄バンクドナーの骨髄採取を行い、患者様(レシピエント)への移植に備えております。有核細胞数の測定や血液型不適合同種移植に関して無菌操作により細胞調整しております。
・末梢血幹細胞移植
血液成分分離装置を用いて、臨床工学技士が患者様および血縁ドナーからの末梢血幹細胞採取を安全に行っております。採取された幹細胞は、フローサイトメーターを用いてCD34陽性細胞数を測定し、無菌操作により細胞調整後、超低温保冷庫にて凍結保存します。移植時は無菌的に解凍し、輸血管理システムで照合後、出庫しております。
・臍帯血移植
臍帯血バンクより届けられた臍帯血を超低温保冷庫にて凍結保存し、移植時には無菌的に解凍し、輸血管理システムで照合後、出庫しております。
・幹細胞プロセッシング室
幹細胞プロセッシング室には安全キャビネットを設置し、その中で無菌的に幹細胞の処理を行っています。
・血液成分分離装置
血液成分分離装置を用いて末梢血幹細胞を採取します。時間は2~3時間程度要します。当院では、Spectra Optiaを使用しています。血液型不適合同種移植に関して、状況に応じて血球除去処理も行っております。
・フローサイトメーター
フローサイトメーターにてCD34陽性細胞数を測定し、幹細胞がどのくらい採取されたかを調べます。
当院では2016年6月より、輸血オーダ等に関してすべて輸血オーダリングシステム・輸血管理システムで行っております。輸血管理システムでは、輸血用血液製剤・アルブミン製剤の入庫・出庫を行い、使用状況の把握を行っております。採血された輸血用自己血製剤は、輸血管理室の専用保冷庫にて保管・管理しております。
輸血用血液製剤およびアルブミン製剤の使用状況や廃棄事例、輸血に関する副作用、インシデントなどの報告について、輸血療法委員会を月1回開催し、安全で適正な輸血療法の推進を行っております。
また、日本赤十字血液センターと連携し、輸血に関する最新情報も院内に提供しております。
輸血後の検査データを確認し、輸血の効果や遅発性の副作用がないかの確認を行っています。輸血による感染症を早期発見するため、輸血前後の感染症検査が行われているかを確認する体制をとっています。
輸血管理部長 宮園 卓宜(みやぞの たかよし)