【概要】
中野伸亮今村総合病院血液内科医師・清風会クリニック院長、自治医科大学附属さいたま医療センターの仲宗根秀樹血液科教授・血液科研究室長、宇都宮與今村総合病院名誉院長兼臨床研究センター長、大分大学医学部の緒方正男腫瘍血液内科教授らの研究グループは共同で、日本の全国調査データベースに記録されている、成人T 細胞白血病以外の疾患に対する初回造血幹細胞移植(HSCT)を受けた合計25,839 人の患者(成人24,399 人、小児1,440 人)を対象に、移植前のHTLV-1 血清情報について分析を行い、造血幹細胞移植後の全生存期間、移植関連死亡率、および疾患関連死亡率を移植前のHTLV-1 の血清学的状態と関連させた調査を実施し、同種移植が施行された成人において、全生存期間、移植関連死亡率が、同小児において移植関連死亡率が、HTLV-1 キャリアでは不良であったことを明らかにしました。
本研究結果は、2023 年9 月22 日に『The Lancet Regional Health - Western Pacific』(ザ・ランセット・リージョナルヘルス-ウエスタンパシフィック)に掲載されました。
https://www.thelancet.com/journals/lanwpc/article/PIIS2666-6065(23)00220-1/fulltext
【背景】
ヒトT 細胞白血病ウイルスI 型 (HTLV-1) は、成人T 細胞白血病リンパ腫(ATL)を引き起こすことが知られているレトロウイルスです。このウイルスは、主に母乳感染で感染することが知られており、世界的にみて日本人では、このウイルスのキャリアは多いと考えられています。ATL を発症する患者は、HTLV-1 キャリアの5%未満とされており、キャリアの大部分はATL を発症することなく生涯を全うします。従って、HTLV-1 キャリアのうちで、ATL 以外の疾患に対して造血幹細胞移植(HSCT)が施行されることがあります。これまでのところ、ATL 以外の疾患を持つHTLV-1 キャリアに対する造血幹細胞移植 (HSCT) に関する、日本人単独の報告や小児に関する報告はほとんどありません。
【調査結果】
今回の研究は、本邦の造血細胞移植全国調査(移植登録一元管理プログラム;TRUMP)を基にした研究であり、2007 年1 月から2015 年12 月までの間で、本邦において、ATL 以外の疾患に対して造血細胞移植を施行した25,839 人を対象に調査を行った結果、348 人の患者が HTLV-1 抗体保有者(HTLV-1 キャリア)でした。他人の幹細胞を利用する同種移植、自分の幹細胞を利用する自家移植を受けた成人患者におけるHTLV-1 キャリアおよび非キャリアの数は、それぞれ15,777 人中237 人および8920 人中95 人であり、同種移植を受けた小児患者では1424 人中16 人でした。自家移植を受けているHTLV-1 キャリアである小児患者は確認されませんでした。幹細胞源、疾患リスク、または同種移植前のHCT-CIスコアに関して、HTLV-1 キャリアと非キャリアの間に有意差はありませんでした。
同種移植が施行された成人患者における全生存期間 (P=0.020) と移植関連死亡率 (P=0.017) の多変量解析により、HTLV-1 陽性状態が重要な予後因子であることが示されました。
同種移植が施行された小児では、移植関連死亡率は有意に高く、(P=0.019)、全生存期間には有意差はありませんでした。自家移植を受けた成人患者では、HTLV-1 キャリアであることは重要な予後因子ではありませんでした。成人同種移植患者では、サイトメガロウイルスの再活性化を認めた患者が、HTLV-1 キャリアで有意に多く(P=0.001)、それらの患者では移植後の予後は不良でした。
【研究の意義】
これまでHTLV-1 キャリアは、易感染などの報告はあったものの、造血幹細胞移植のリスクとなり得るかに関しては不明でありました。ATL に対する同種移植の成績は近年多く報告されているが、ATL 以外の疾患における、移植成績を検討することで、HTLV-1 キャリアが移植後の予後に及ぼす影響をより明瞭にすることができると考えられます。本研究では、HTLV-1 キャリアでは、成人患者の同種移植後の全生存期間および移植関連死亡率、小児患者の同種移植後の移植関連死亡率が不良であることが示されています。
【プレス情報】
(1)掲載誌:The Lancet Regional Health - Western Pacific
(2)論文名:Outcomes in human T-cell leukemia virus type I carriers after hematopoietic stem cell transplantation for diseases other than adult T cell leukemia/lymphoma: a Japanese national survey
(3)タイトル和訳:ヒトT 細胞白血病ウイルスI 型キャリアが成人T 細胞白血病/リンパ腫以外の疾患に対する造血幹細胞移植後の予後に及ぼす影響:本邦における全国調査
(4)著者名;Nobuaki Nakano, Hideki Nakasone, Shigeo Fuji, Akihito Shinohara, Ritsuro Suzuki, Atae Utsunomiya, Tetsuya Eto, Satoko Morishima, Kazuhiro Ikegame, Yasutaka Kakinoki, Ken-ichi Matsuoka,
Yasuo Mori, Youko Suehiro, Naoyuki Uchida, Ayumu Ito, Noriko Doki, Yukiyasu Ozawa, Junya Kanda, Yoshinobu Kanda, Takahiro Fukuda, Yoshiko Atsuta, Masao Ogata
【本成果を得るにあたり援助をいただいた研究費・助成金】
この研究は、独立行政法人医療研究開発機構 (AMED) のご支援を得て進められました。
(助成番号17ck0106342h0001)。
※ご取材の際には、事前に下記までご一報くださいますようお願い申し上げます。
※本リリースは鹿児島県政記者クラブ、宮崎県政記者クラブ等に送信しております。
【本研究内容に関するお問い合わせ先】
公益財団法人慈愛会 今村総合病院 血液内科
医療法人社団清風会 清風会クリニック 院長
医師 中野 伸亮
TEL : 0986-25-1177 FAX:0986-25-2325 E-mail:
【本リリースの配信元】
公益財団法人慈愛会 今村総合病院 総務課 企画広報係
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