網膜センター

網膜センターの開設にあたって

2025年5月、「網膜センター」を開設する運びとなりました。
目の病気といえば白内障がよく知られていますが、実際には、糖尿病網膜症、網膜剥離、加齢黄斑変性など、失明に直結する網膜の病気のほうが、より深刻な視機能障害をもたらしますし、発症頻度も決して低くありません。特に近年は高齢化の進展に伴い、網膜疾患の患者数が年々増加しており、専門的な診療体制の整備が急務となっています。

しかしながら、網膜疾患は適切な治療により視機能の維持や改善が可能である一方で、診療には高度な専門性と技術が求められるため、網膜を専門とする医師は決して多くはありません。これまで鹿児島県内では、鹿児島大学病院がその役割を担ってまいりましたが、患者数の急増や医療現場における働き方改革の影響により、近年は十分な対応が難しくなっている現状があります。

私はこれまで、日本網膜硝子体学会の理事長、そして鹿児島大学眼科教授として20年以上にわたり網膜疾患の診療・研究に携わってまいりました。その中で、県内にもう一つ、網膜疾患に特化した診療拠点が必要であると痛感しておりました。そうした背景のもと、このたび大学退官に際し、今村総合病院に新たな網膜センターを設立いただけることとなり、これは長年の課題を解決する意義深い一歩であると感じております。

本センターでは、糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、網膜剥離、網膜色素変性症など、あらゆる網膜疾患に幅広く対応いたします。さらに、それらに伴って生じる緑内障や強度近視、眼内炎症、白内障手術後の合併症などについても、十分な診療体制を整えております。
目のことでご不安なことがございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

網膜センター センター長 坂本泰二

診察

治療対象疾患

網膜疾患の全てに対応しますが、代表的な病気を以下にあげます。

糖尿病網膜症

糖尿病になると、5人から7人に1人の割合で網膜症を発症すると言われています。つまり、日本には100万〜300万人の糖尿病網膜症の患者さんがいると推定されます。その結果、毎年約3,000人が新たに失明しているのが現状です。この病気は、特に働き盛りの世代に多く見られ、たとえ失明しなくても視力低下により仕事を失う可能性があります。きちんと治療をすれば進行を防ぐことができますが、症状が出てからでは手遅れになることもあるため、できるだけ早めに眼科を受診することが何よりも大切です。

加齢黄斑変性

加齢黄斑変性は、ものを見る中心「黄斑」が加齢によって傷む病気で、視界の中心がゆがんだり暗くなったりします。主に50歳以上に多く、日本では約70万人が治療を受けています。進行すると読書や運転が難しくなり、生活に支障をきたすことも。早期発見と治療が視力を守る鍵となるため、50歳を過ぎたら定期的な眼科検診が重要です。

網膜剥離

網膜剥離は、眼球の内側にある網膜がはがれてしまう病気で、視野が欠けたり、光が走るように見えたりする症状が現れます。進行すると急激に視力が低下し、治療が遅れると失明に至ることもあります。特に近視が強い人や加齢によって起こりやすく、打撲や目の手術後に発症することもあります。早期に発見して手術を受ければ視力を保てる可能性が高いため、異変を感じたらすぐに眼科を受診することが重要です。

中心性漿液性脈絡網膜症

中心性漿液性脈絡網膜症は、網膜の中心部に液体がたまって視力がぼやけたり、物が歪んで見えたりする病気です。30〜50代の男性に多く、ストレスやステロイド薬の使用が関与するとされます。多くは自然に回復しますが、症状が長引く場合はレーザー治療などが必要になることもあります。早めの診断と経過観察が大切です。

黄斑円孔

黄斑円孔は、ものを見る中心である黄斑に穴があく病気です。視力低下や物がゆがんで見える症状があり、放置すると視力がさらに悪くなることがあります。主に中高年に見られ、原因は硝子体という目の中のゼリー状の組織の変化によるものが多いです。早期発見と治療が大切で、通常は硝子体手術で穴をふさぐことで視力の回復が期待できます

診断法

網膜の診察には、最新の機器を揃えていますが、その例を以下に示します。

OCT(広角光干渉断層計)

OCTは網膜の病変を描出するには不可欠の機器ですが、当病院で最近導入した機器(SS-OCT)は、従来型と比べてはるかに広く深い範囲を撮影できるので、病気の診断が正確になりました。

OCT(広角光干渉断層計)

超広角眼底カメラ(Optos)

眼底の観察につきましても、最新式の超広角眼底カメラの導入により、より正確な診断が可能となっております。下図に示すように、従来装置と比べて、はるかに広い範囲を一度に撮影・観察することができるので患者さんが大変楽に検査を受けられます。

超広角眼底カメラ(Optos)

治療法

光凝固療法

糖尿病網膜症、加齢黄斑変性、網膜静脈閉塞などの疾患には、網膜にレーザー光線を当てる治療を行います。外来で行える治療ですので、患者様への負担は小さいです。

硝子体注射

抗VEGF薬やステロイド薬を眼球に注射する治療です。加齢黄斑変性や糖尿病網膜症など、網膜の病気に対して行われ、視力の低下を防ぐことが目的です。痛みは最小限で、数分で終わる外来治療として多くの患者さんに行っております。

硝子体手術

硝子体手術は、目の中の硝子体という透明なゼリー状の組織を取り除き、網膜などの疾患を治療する手術です。網膜剥離、硝子体出血、黄斑円孔、糖尿病網膜症などが主な対象で、細い器具を目の中に挿入して精密に操作します。手術時間は1時間程度で、局所麻酔で行われることが多く、現在では安全性も高くなっています。当院では、倫理委員会承認のもとで、欧州で使われている最新の補助薬などを使って良好な成績を収めています。

担当医紹介

坂本 泰二

さかもと たいじ

眼科 網膜センター長

専門

日本眼科学会 眼科専門医・指導医
医学博士

評議員・その他

前鹿児島大学眼科学教授
日本眼科学会前常務理事
日本眼循環学会常務理事
ヨーロッパ網膜学会常務委員
日本網膜硝子体学会理事長

メッセージ

通常症例から難症例まであらゆるケースに対応いたします。満足される治療を提供いたします。