肘の障害と言っても種類がいくつかあります。内側(肘内側側副靭帯損傷、肘部管症候群)、後方(後方インピンジメント症候群、肘頭骨折)、外側(肘離断性骨軟骨炎)などとそれぞれで問題や症状が違います。しかし、原因は、投球時にかかる肘を外側に曲げようとするストレスです。まず、このようなストレスが加わると内側にある靭帯やその付着部となる骨に負荷がかかり、ゆるみの原因になります。そして、次に肘の外側に圧迫する負荷がかかり、軟骨に障害が出る事があります。更には、後方でも骨同士でのぶつかり合いが起こり、骨棘というとげが出来てきたり、それが骨折して遊離体(いわゆる『ねずみ』)となったりしてしまう事があるのです。
上記のような障害が起こってもリハビリによって再び投球できるようになる事もありますが、手術が必要になる場合もあります。これから肘の手術後のリハビリについて説明します。
手術後(急性期) | 手術後は患部が腫れ、炎症症状が出現します。痛みの管理と肘以外の部分(特に肩甲骨)のリハビリが主になります。 |
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〜3ヶ月 | 急性期を過ぎたこの期間は、肘の可動域(動き)の回復が優先されます。さらに徐々に筋力の回復も図り、この期間中に出来る限り、肘にストレスを与えていた原因(全身的に)を改善するためにうまく使えていない筋肉を使えるようにするための練習やストレッチなど行っていきます。 |
3ヶ月〜復帰 | この時期になると競技復帰に向けて、トレーニングの負荷を上げていき、競技特性(ポジションなども含む)を考慮したリハビリを展開し、競技復帰をサポートします。 |
※あくまで目安です。個人や手術内容、経過により期間が前後する場合があります。
腱板とは、肩甲骨と上腕骨をつないでいる筋肉(棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋)のことを言います。これらは、手を使うときに肩関節が安定するよう作用しています。しかし、使い過ぎや無理な動きを繰り返すことで、腱板にストレスがかかり腱組織が変化し、腱の柔軟性がなくなり、断裂が起こりやすくなります。腱が傷ついたり、断裂したりしてしまうと不安定な肩となって、頭の上の物を取ったり、背中に手を回したり、服を着たり脱いだりという動作がしにくくなり、痛みを伴う場合もあります。治療として、注射やリハビリで痛みを発生させる機械的ストレス(使い過ぎ・靭帯のゆるみ・肩のこわばり・肩周囲の筋力低下)の軽減・損傷した腱板筋の機能を代償する能力を獲得するための運動や日常生活動作の指導を行っていきますが、長期間症状が続くようならば、手術が必要となります。
手術後は患部が腫れたり熱をもったりする炎症症状が出現します。翌日からリハビリが始まり、肩・肩甲骨周囲の筋肉のリラクゼーションや手術した肩以外の関節を動かす運動や入院による体力の低下を予防していきます。また、装具(下の写真)で3〜4週(場合によっては5〜8週)間、患肢を固定しますが、入浴やリハビリのときは適宜外すことは可能です。
術後9週〜 | 自分の力で腕を挙げる練習を始めていきます。 |
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術後3ヶ月〜 | この時期になると、日常生活での軽作業が許可されます。リハビリでは、肩に対する筋力強化や荷重位でのトレーニングが追加されます。 |
術後6ヶ月〜 | 重労働が可能となり、日常生活ではさほど支障がない時期となります。 |
※あくまでも目安です。個人差はあります。
Bankart損傷とは脱臼によって起こった、肩甲骨にある関節唇の前下方部分の剥離損傷のことです。
関節は骨と骨が向き合い、動きの起こる場所で、基本的には受け皿のような形の肩甲骨関節窩と言われる骨と、そこに合うような形をした上腕骨頭と言われる骨が向き合っています。また、関節には動きを助ける組織がいくつか備わっています。その一つが関節唇です。関節唇は関節窩の周りにあり、骨と骨が接する面積を増やし、動きを安定させる役割があります。脱臼で、この前下方関節唇が剥がれた状態をBankart損傷といい、なかには関節唇と同時に関節窩も傷ついてしまうケースがあります。
この運動の連鎖がスムーズに行われていれば肩や肘の負担は少なく、高いパフォーマンスを維持できます。
これからBankart損傷の手術後のリハビリについて説明いたします。
手術後(急性期) ~術後4週 |
手術後は患部が腫れるなど、炎症症状がみられます。痛みが強くなったりしないようにする事が大事です。この期間では肩以外の機能が低下しないようにリハビリを行います。 |
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術後4週~6週 | 装具の外れる術後4週ごろから手術した肩を動かしていきます。初めは手術していない側の手で支えながら動かすなど出来るだけ患部に負担がかからない状態から始めていきます。また、動かす方向も手術した部位が伸ばされない方向や角度から行います。さらに筋力の回復も図っていきますが、初めは肩を動かさない状態で低負荷のエクササイズから行っていきます。 |
術後6週~6ヶ月 | この時期になると、肩の動く範囲をさらに広げる為に手術した部位が伸ばされるような方向へも動かしていきます。床や壁に手を着いた状態での運動は術後2ヶ月以降に行い、負荷のかかる抵抗運動や筋力訓練は術後3ヶ月以降に行います。 |
術後6ヶ月以降 | この時期には、重労働を伴う仕事やスポーツの動作を意識したリハビリを行い、本格的な仕事復帰もしくはスポーツ復帰をサポートします。必要に応じて、筋力トレーニングを行う事もあります。 |
手術後~約4週 | 装具による安静・固定 |
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1~2ヶ月 | 基本的な日常生活での不自由がなくなる。ジョギング |
3ヶ月 | 筋力訓練、抵抗運動 |
7ヶ月~10ヶ月 | スポーツ復帰 |
※ラグビー、柔道などのコンタクトスポーツや野球、バレーボールなどのオーバーヘッドスポーツ
肩鎖関節とは鎖骨と肩甲骨からなる関節です。
日常生活では自転車事故や転落・転倒、スポーツではラグビーや柔道等のコンタクトスポーツにより肩の外側を強く打ち付けることにより受傷します。この際、肩鎖関節が外れることで肩鎖関節に付着している靭帯や筋肉が損傷をうけることもあります。
関節が外れる方向・程度により捻挫、亜脱臼、脱臼に分類されます。
Ⅰ型(捻挫) | 肩鎖靱帯の部分的な痛みのみで烏口鎖骨靱帯、三角筋・僧帽筋に異常はない。 |
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Ⅱ型(亜脱臼) | 肩鎖靱帯が断裂。烏口鎖骨靱帯は部分的に傷んでいる。三角筋・僧帽筋は正常。X線では関節の隙間が拡大し鎖骨の端がやや上にずれる。 |
Ⅲ型(脱臼) | 肩鎖靱帯が断裂。烏口鎖骨靱帯は部分的に傷んでいる。三角筋・僧帽筋は正常。 X線では関節の隙間が拡大し鎖骨の端がやや上にずれる。 |
Ⅳ型(後方脱臼) | 肩鎖靱帯、烏口鎖骨靱帯ともに断裂。三角筋・僧帽筋は鎖骨の端から外れている。 鎖骨の端が後ろにずれている。 |
Ⅴ型(高度脱臼) | Ⅲ型の程度の強いもの。三角筋・僧帽筋は鎖骨の外側1/3より完全に外れている。 |
Ⅵ型(下方脱臼) | 鎖骨の端が下にずれている非常にまれな脱臼。 |
Ⅰ型・Ⅱ型は保存療法となり三角巾で2~3週間の固定を行います。物理療法や運動療法を行い、肩関節の動き・筋力の回復をおこなっていきます。2カ月は重労働やコンタクトスポーツは禁止です。
Ⅲ型は中高年の事務職では保存療法となり上記と同様の治療となります。若年者やスポーツ・仕事で肩をよく使う人は手術となります。
Ⅳ型・Ⅴ型・Ⅵ型は手術が必要となります。手術は傷んだ靱帯・筋肉の修復、脱臼した関節の修復をするのが目的です。
手術後~4週 | 装具での固定期間となります。術後1週~固定したままでデスクワークは許可されます。術後の急性期は炎症症状の軽減を優先的に行い、患部外の運動が主になります。 |
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4週~ | 固定期間が終わると肩の動きの改善を図ります。肩に負担のかからない動きを獲得するために肩甲骨や体幹の協調的な運動も行っていきます。 |
3ヶ月~ | 軽作業の許可がでます。肩の可動域改善と共に積極的な筋力改善を行います。 |
6ヶ月~ | 重労働が許可されます。負荷量を上げた運動も取り入れていきます。 |
関節唇(かんせつしん)は、肩の受け皿となる骨の輪郭を覆っている線維性の軟骨です。関節唇は上方関節唇、前方関節唇、下方関節唇、後方関節唇に分けられ、肩関節を安定させるとともに、衝撃などを吸収するクッションの役割をしています。通常、関節唇は骨に着いていますが、肩を使うスポーツ動作や肩関節の脱臼などではがれることがあります。これが関節唇損傷です。
特に野球では投球のしすぎやスライディングで肩をひねったりして関節唇を傷めることがあります。はがれる部位は肩の上方、前方、後方と様々ですが、野球肩では上方の関節唇がはがれやすいとされています。上方の関節唇がはがれると肩の安定性が失われ、投球時に肩の痛みや引っかかるような違和感を感じるようになります。
一度はがれた関節唇は自然に治ることはありませんが、急性期の安静とその後のリハビリで症状が改善することがあります。しかし、リハビリなどの保存療法を行なっても症状が改善されなければ、はがれた関節唇を縫い合わせる手術が必要になります。これから肩関節唇損傷の手術後のリハビリについて説明します。
手術後(急性期)~ | 手術翌日よりリハビリを開始し、約4週間は肩に装具を装着します。この時期は炎症症状が出現するため、痛みの管理と肩以外の部分のリハビリがおもになります。 |
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~4ヶ月 | この時期から肩の可動域(動き)の改善を図っていきます。また、肩に負担をかけない動作を身につけてもらうために、上半身・下半身ともに、柔軟性を出す、筋力強化を図るためのリハビリを行っていきます。 |
4ヶ月~復帰 | この時期からは競技復帰に向けて、トレーニングの負荷を上げていき、競技特性(ポジションなども含む)を考慮したリハビリを展開し、競技復帰をサポートします。 |
手術後~約4週間 | 肩に装具を装着 |
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4ヶ月~ | キャッチボール |
5~6ヶ月 | 全力投球 |
6~7ヶ月 | 野手:復帰 |
8ヶ月~ | 投手:復帰 |
肩関節周囲炎は痛みの強い時期と動きが制限される時期があり、1年から1年半で自然治癒することもあれば、無理に動かしたり放置したりすることで、肩の他の組織の障害を引き起こしたり、更に動きの制限を来すことがあります。リハビリテーションではそれぞれの時期に合わせた適切な治療を行います。痛みの強い時期には日常生活での注意点 についてのお手伝いや痛みを軽減させるための運動療法を行います。動きの制限に対しては、様々な方向に制限されるため、理学療法士が最も原因となる組織を見極め、その組織に対して治療を行います。また、日常生活を送る中で、動きがより少なくなる部位や、反対に大きくなる部位と、関節や筋肉のバランスが悪くなることがあります。1人1人生活習慣で動きは異なってきますので症状に応じて肩の機能改善を目指します。
痛みやひっかかり感、腕が上げにくい等の症状があらわれます。腱板は小さな筋肉ですが、腱板が損傷された場合は、これらを総合的に診ていくことが必要となります。筋肉が間違った使い方を繰り返していることもありますので、柔軟性や筋力を改善すると同時に、肩に負担のかからない運動のパターンをお伝えしながら、日常生活で痛みがなく、無理のない動きができるよう、肩の機能改善を目指します。
物をつかんで持ち上げたり、パソコン作業、テニスではバックハンドストロークで肘の外側が痛みます。主に手首を伸ばす働きをする短橈側手根伸筋が肘の外側で障害されて生じると考えられています。 関節と筋肉のバランスが悪くなっていることが多いので、そのバランスを整えながら手首を動かす運動を理学療法士と行っていきます。その他自宅でのセルフエクササイズの指導や日常生活でのテニス肘用のバンドの使用やパソコン環境の工夫等のお手伝いをします。テニス等スポーツをされる方では、ラケットの持ち方やバックボレー等のフォームで肘に負担がかかっていることもありますので、復帰前では肘に負担のかからないフォームの習得ができるよう全身的なアプローチを行います。
野球やバレーボール、ハンドボール、テニスなどオーバーヘッド動作でボールを打ったり投げたりするスポーツでは肩や肘を痛めてしまうことがあります。しばらくスポーツを休めば痛みは軽快しますが、復帰すると痛みが出てしまうことを繰り返して、なかなか良くならない選手もいます。
なぜそのような事が起こるのか?スピードのあるボールを投げたり、力強いスパイクを打ったりするには肩や肘だけの働きでは出来ません。下半身がしっかり安定してしかも柔軟に動き、下半身に生じたエネルギーを骨盤、体幹、胸郭、肩甲骨と順次伝え、肩がしなやかに動き、肘が伸びて、手指に力が加わることで、ボールに効率良く最大のエネルギーが伝えられます。順序良くこの運動の連鎖行われなければ、肩や肘の力に頼った動作になってしまい、肩や肘にかかる負担が大きくなります。これにより、さらには腱や軟骨を損傷したり、痛みが生じたりしてしまいます。
では、どうすればいいのか?肩や肘に頼りすぎない動作ができるようになれればいいのです。そのためには、肩や肘のみの治療だけではなく、肩甲骨や胸郭、体幹、骨盤、股関節など全身を診て問題がある場所をみつけ、動きを妨げている部分を動きやすくなるようにすることが大事です。
その原因は1人1人違いますので、当院では、理学療法士が上記のことを踏まえ、全身的に診て治療することで肩や肘に負担のかからない円滑に動ける身体づくりを行っています。
さらに、当院では投球スペースも設置しており、理学療法で関節の動きや筋肉の状態などの身体の状態を良くし、実際にそれが動作に生かされているかどうかのチェックも行います。身体の状態がいくら良くなっても間違った使い方で動作を反復していると結局、肩や肘に負担をかけてしまいます。動作を繰り返しても極力、肩や肘にかかるストレスを減らすことが重要ですので、『身体の動き』の改善も必要であれば行っていきます。
このように身体や動きの改善を改善し、痛みがなく全力でプレーできるような状態で競技復帰できるように1人1人にあったリハビリを提供しています。
投球動作などで痛めた肩、肘の治療は、投球障害で述べた通りですが、怪我してスポーツ活動が制限されないためにも予防が大事です。
近年、子どもたちを取り巻く環境も変化しており、TVゲームや携帯電話の普及、屋外環境の変化などにより、昔と比べて屋外での遊びや体を使った遊びが少なくなっています。そのような背景もあり、子どもの体力・運動能力が低下してきています。
そもそも『投げる』動作は寝返りや起き上がりのように子どもが成長していく中で自然に覚える動作ではないといわれています。幼児期にボールを投げることが少なく、『投げる』動作を体が知らないまま、成長しオーバーヘッド動作を行うことは危険です。
基礎体力・運動能力の低下し、『投げる』動作を体得していない子どもたちが、スポーツ活動の中で、間違った動きや体の使い方を反復し、個人に応じた必要量以上の練習を行うことで、スポーツ障害につながる危険性が非常に高くなります。
学生期間のスポーツ活動は期間が制限され、あっという間に終わってしまいます。そのような短い期間のスポーツ活動を怪我で棒に振ってしまわないように最近では、スポーツ障害予防の重要性が多く指摘されています。
そのような観点から当院では、投球教室を不定期(約2ヶ月に1回 土曜午後開催 院内掲示やホームページで案内)ながら、開催しております。
投球教室では、投球動作の中で知っておきたい身体の仕組みや投球動作の際にどのように身体が動いているのかの説明、さらに自分でどういったことを日頃からチェックすればいいか?どういう考え方をすればいいか?といったことの説明や個別に投球動作をチェックし、問題のある点やその改善方法の指導を行います。その際に、自宅に帰っても復習を出来るように、指導内容を動画や言葉でまとめたものをCD−Rにてお渡しするようにしています。さらに当院スポーツ整形外科専門医の超音波を使った野球肘診断も無料で行っています。成長期の子どもは軟骨よりも靭帯が強度が高く、投球動作で軟骨を傷めてしまうことがあります。その時は痛みがはやく引く、投げられるようになることが多いのですが、傷めた軟骨が完全に治癒しないまま投球動作を再開してしまうと、さらに成長して投げる力が強くなってから重大な障害を引き起こしてしまうことがあります。そういった意味でも野球肘は早期発見が非常に重要となりますので大変好評です。また、身体機能のチェックも行い、ケガ予防のためのストレッチやセルフエクササイズの指導も行っております。
投球教室に関するご質問等ございましたら、お気軽に当院スポーツ整形リハビリセンターにお問い合わせください。